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真夏の夜の夢 [物語(石田三成)]

※初めに、注意事項をお読みください。

※この物語は、すべて作者の妄想でできております。

※この物語は、公式の物語と一切関係ありません。

※今回の怪談は、『牡丹灯籠』をベースにしています。怪談が苦手な方は、ご遠慮ください。

※キャラの性格が、公式のイケメン戦国やあなたの妄想と違う場合があります。そういうのは受け付けないわ!という方は、このまま、回れ右をしてお帰りいただき、このブログのことを一切お忘れいただきますよう、お願いします。

以上のことがお守りいただける方のみ、この先にお進みください…。  
  
 これは、ある真夏の夜に、三成の身に起きた、悲しい恋の物語である…。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 その日、三成は頼んでいた戦術書が届いた、との知らせを受け、城下にある書物問屋を訪ねた帰り道、旅支度で胸を押さえてうずくまる少女がいた。慌てて駆け寄り、声をかける。

「大丈夫ですか!」
「…急に…胸が…」
「…そこの茶屋まで、動けますか?」
「…はい…、何とか…」

 苦しそうに息をする少女を支えながら茶屋へと移動し、椅子に座らせて、店主に水を頼み、少女に渡した。少女は印籠から丸薬を出してそれを飲み、何度か大きく息をすると、ようやく人心地ついたようで、安堵の笑みを浮かべて三成を見つめた。

「…助けていただき、誠にありがとうございます。私は、かなと申します。失礼ですが、お武家様は…」
「私は、石田三成と申します。楽になられたようで、安心しました。…かなさんは、国は…」
「………かな様ー!かな姫さまー!」

 名乗りあった直後に旅装束の武士らしき男が、二人のところに走り込んできた。男は、かなをなめるように見回すと、大きく息をついて言った。

「…何もなくて、安心しました…。初めての土地で、右も左も分からぬというのに、勝手に離れないでください。貴女にもしものことがあったなら、殿に顔向けできません!」
「亀三郎さん、ごめんなさい…。つい、はしゃぎすぎてしまいました…」
「…? 貴方様は…?」
「あ、この方は、胸の癪がきて動けなかった私を助けてくださった、石田様です。石田様、彼は私の護衛で、三島亀三郎と申します」
「下野国藩、藩主の宇都宮様の家臣であります。この度は、姫の命をお救いいただき、誠にありがとうございました」
「宇都宮…? あ、今日、信長様に謁見する大名でしたね…。私は、豊臣秀吉様の家臣で石田三成と申します」
「石田…、あ、あの、織田軍きっての軍師とうたわれたあの…。お噂はかねがね、我が藩にも届いております。お会いできて光栄です」

 亀三郎は、瞳を輝かせて三成を見つめた後、再びかなの方に目を向ける。

「姫様、今日は宿にお戻りください。間もなく、父上様も戻られます。心配をかけぬように…」
「…分かりました…。石田様、本当にありがとうございました」
「いえ、あまり無理をせず、早めに休んでくださいね」
「はい、それでは、これで失礼します…」

 かなは亀三郎の手を取って立ち上がり、三成に再び頭を下げると、ゆっくりと帰っていった。二人の姿が見えなくなると、三成は愛しい彼女と大切な家族へのお土産を買い、城へと戻っていった…。

        ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 城に帰ると、着飾った茶猫が出迎えた。どうやら、大名の謁見に同席させられたようだ。大きなため息を吐きながら愚痴をこぼす彼女に、お饅頭の包みをみせる。

「お饅頭を買って来たので、一緒に食べませんか?」
「わぁ! 美味しそう…。あ、着替えてくるから、ちょっと待っててね」
「はい、あ、慌てなくても大丈夫ですよ。部屋でお茶を入れてお待ちしてます」
「分かった! 急いで行くから待っててね!」

 ぱたぱたと走っていく茶猫を微笑んで見送りながら、三成は自室へと戻った…。

 自室に入ると、ケイが部屋の片付けをしていた。三成を見ると、手を止めて駆け寄ってきた。

「お帰り、三成! 遅かったニャね?」
「ただいま、ケイ。ちょっと、人助けをしていたら遅くなったんだ。心配かけてごめんね」
「んーん、大丈夫ニャよ。……あ、それ、お饅頭ニャね! 今、お茶淹れるニャ」
「あ、茶猫様も来るから、三人分淹れてね」
「了解ニャ!」

 嬉しそうにはしゃいでお茶を入れていると、着替えを済ませた茶猫が入ってきて、ケイが淹れたお茶を飲みながら、つかの間のティータイムになった。

「…ほんと、やんなっちゃった」
「大変だったニェ。ニェも、あんたしかできない役ニャ。仕方ニャいニャね」
「そうですね…。『織田家ゆかりの姫』という大役は、茶猫様にしかできませんから」
「それにしたって…。あ、そういえば、あの大名さん、娘さんがいるって言ってた。病弱で、一度も城を出たことがないから、思い出作りのために連れて来たらしいんだけど…」
「あぁ、その方なら、私が城下で会いました。胸の癪に苦しんでいらっしゃったので、茶屋で手当てをしていたら連れの方が来たので、宿の方に戻られました」
「そっか…。大名さん、心配そうにしてたから…。なら、よかった」

 茶猫が安堵したように答えると、ケイと三成もうなずいて答える。

 こうして、穏やかに一日が過ぎて行った…。

         ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 あれから二ヶ月が過ぎたある夏の夜、三成の御殿をかなが訪ねて来た。驚きながらも彼女を招き入れ、お茶を勧める。

「…ありがとうございます、石田様」
「三成でいいですよ、かな様。今日は、一人なのですか?」
「はい…。どうしても、石田様…あ、三成様に会いたくて、一人で旅をして参りました…」
「そうですか。では、早めに帰らないといけませんね…。宿まで、送りましょう。どちらにお泊りですか?」
「大丈夫です。それより、何か、お話ししていただけませんか?」
「話…ですか…?」
「えぇ、…恥ずかしい話なのですが、この前、安土に来るまで私、城から出たことがなかったのです…。身の回りのことは全て、女中がしてくれて、不自由したことがなかったから、あまり、外の世界に興味もなかったのですが、初めて旅をして、三成様にあって、外の世界をいろいろ知りたくなったのです…」
「そうでしたか…では…、この辺がいいかな…」

 少し俯きながら恥ずかしそうに語るかなに、三成は近くの本の山から御伽噺の本を取り出し、読み聞かせた。
 本が読み終わると、満足したように彼女が立ち上がり、三成が門まで見送ると、何度も頭を下げて、闇の中に消えていった…。

           ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 かなが訪れるようになって一週間が過ぎた、ある昼下がり。三成の顔色が悪いことに気が付いた秀吉が声をかける。

「三成、ちょっといいか?」
「…何でしょう? 秀吉様」
「…お前、ちゃんと寝ているか?」
「はい、…あ、かな様が来ているので、少し寝る時間が短くなっていますが…」
「かな? …あ、あの、下野国の大名の娘か」
「はい…。今夜も来ると言っていたので、早めに戻らないと…」

 そう答え、ふらふらしながら自室へと歩いて行く三成を不安そうに見ていると、同じように見つめる茶猫とケイがいた。秀吉は、そっと二人に歩み寄って話しかけた。

「茶猫、ケイ。…三成のことで何か、知らないか?」
「私も、様子がおかしいから話しかけるんだけど、なんだか上の空で…。いつもの三成くんと違うの…」
「ほんと、にゃんか変にゃんだ…。生気がニャいっていうか、…そんニャ感じ?」
「あ、うん、そうそう、そんな感じ…」
「下野国の大名が来ているっていう話も聞いてないが、姫が一人で来るとも思えない。…ケイ、光秀の仕事上がりで疲れてるとこ悪いが、ちょっと調べてきてくれないか?」
「分かったニャ! ちょっと待っててニェ!」

 いうが早いか、中庭に飛び降りて穴を掘って消えるケイ。ほどなくして、同じ場所から血相を変えて飛び出してきた。

「大変ニャ! かな姫さん、半月ほど前に流行り病で亡くなってるニャ!」
「えぇ! それじゃ、三成くんのところに通ってるかなさんは…幽霊?!」
「そうだとすれば、合点がいく…。どうしたものか…」
「お祓いするニャら、お坊さんニャね。僕、近くに心当たりがあるニャ! 行ってくるニャ!」
「あ、待ってケイちゃん、私も行く! 秀吉さん、三成くんを見てて!」
「…おう、…って、こら、廊下を走るな!」

 再び中庭に飛び出そうとしたケイを抱きかかえ、茶猫が走り去っていくのを見送った秀吉。飛び出して行った二人の後を追いかける、不審な影に気付かぬまま、踵を返して三成のところに向かった。

       ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 二人は、安土の森の中に来ていた。薄暗いけもの道を用心しながら歩いて行くと、呆れたような低い声が聞こえる。

「……か弱い女子が危険な森の中をうろつくな、と、何度忠告すればわかるのだ?」
「顕如さん!…よかった、いてくれた…。お願いがあって来たんです。どうしても、貴方にしかできないことなので…」
「ふん、今回は、一人ではないようだな…」
「えぇ、ケイちゃんも一緒です。だから、大丈夫…?」
「……尾行されてるにょ、気付かにゃかったの? ほんと、鈍感ニャね」
「尾行?」
「……隠れていないで、出て来たらどうだ? 明智光秀」
「さすが、小娘と違って察しがいいな、顕如殿。こんなところに潜んでいたとは…」

 木陰から姿を現した光秀に驚愕する茶猫と、大きなため息を吐くケイと顕如。声にならない声で事情を聞きたがる茶猫に、ケイが説明する。

「お城を出た時から、ずっと尾行されてたにゃ。もう、あんたが邪魔しにゃきゃ、撒けたにょに…」
「撒けたって…」
「…確かに、ケイに土遁を使われたら、俺でも尾行は不可能だな」
「……あ!」
「今回は、お前の機転に感謝してるよ、茶猫。この礼は、あとでたっぷりいじめてやろう」
「え、遠慮します」

 楽しそうに忍び笑いをする光秀に、怯えたようにたじろぐ茶猫。顕如がしびれを切らしたように口を開く。

「…それで何の用だ? 用も無く、こんな森の奥まで来たわけではあるまい」
「あにょね、顕如さん。三成を助けてほしいにょ。…顕如さんにとっては、憎い相手の付属品かもしれニャいけど、僕にとっては、大切な家族ニャの…。だから…」
「事情を話してみろ。…他の奴ならいざ知らず、お前の頼みなら、仕方があるまい…」
「ありがとニャ! あにょね…」

 優しく微笑んで答える顕如に、ケイが説明する。全てを聞き終わると、少し難しい顔をして口を開いた。

「……成程、死者が三成にとりついているのだな。その娘、自分が死んだことを理解しているのか否かわからんが、三成が命を落とせば、大変なことになる…」
「どういうこと、ですか?」
「死者がまだ生きている者に憑りつき、相手を殺してしまうと、『夜叉』という悪霊になってしまう。そうなると、極楽に行くことができず、この世をさまよい、人に憑りつき、命を奪い続ける悪鬼になる。…違いましたかな? 顕如殿」
「光秀の言う通りだ。そうなれば、私の手には負えん。陰陽師によって、消滅させられてしまうだろう…。できれば、そうなる前に救ってやりたいが…。ケイ、その娘の戒名は分かるか?」
「ちょっと待っててニャ。調べてくるニャ」

 顕如に促され、土遁を使って確認してきたケイ。戒名が書かれた紙を受け取ると、三人に言った。

「明日の午の刻までに、祓うための道具を準備しておこう。そのころにまた、ここに来るといい」
「分かりました…。よろしくお願いします!」
「あぁ、気を付けて帰れ。いいな」

 顕如は、少し冷たい口調で言うと森の奥へと消えていった。茶猫達も、光秀に促され、森を後にした…。

      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 同じころ、秀吉は三成の部屋を訪れていた。茶を淹れようとする彼を制し、かわりにてきぱきと茶を入れて、口を開いた。

「…三成、かな姫に会うのはやめるんだ」
「…秀吉様、どうして…ですか?」
「彼女は、半月も前に流行病で亡くなっている。…ケイが、確認してきたから間違いない」
「そんなはず、ありません。昨日も、私が淹れたお茶を飲みながら、御伽噺を読み聞かせていたのですよ?」
「……三成、その彼女に触れたのか? 温もりを感じたのか? …何より、胸に病を抱えているというのに、お供もつけず、たった一人でこの安土まで、旅をして来られると思うのか?」
「……っ。ですが、彼女は間違いなく、私と共に話をして、帰っていくのです。例え、秀吉様であっても、そんなことを言うなんてひどすぎます!」
「三成! このままだと、お前は彼女にとり殺されるぞ!」
「……ほっといてください!」

 言い終わるや否や、三成は秀吉の制止を振り切って、飛び出して行った。慌てて追いかけようとする彼の前に、光秀が立ちはだかった。

「何があった?秀吉。三成があんなに怒るなんて、珍しいんだが…」
「……事実を伝えただけだ。あいつ、何をあんなに意地になっているんだか…」
「…阿保か、お前は。死霊に憑りつかれている相手に事実を伝えても、受け入れるはずがないだろう」
「…!………悪かったな。で、お前は今までどこに行ってたんだ?」
「二人を尾行して、坊さんに会ってきた。明日の午の刻までに、準備を整えておくと言っていた」
「そうか。……何とか、今夜を乗り切ってくれるといいんだが…」
「あぁ、三成のため、幽霊のためにも、な…」

 光秀の意味深な言葉に秀吉が神妙な顔で答えると、二人はそれぞれの仕事へと戻っていった。

        ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇    

 翌日の午の刻、三人は昨日の場所へとやってきた。既に顕如が来ていて、怪訝そうな顔で光秀を一瞥する。

「……なぜ、貴様がいる?」
「貴殿の手腕を見たくてね。……そんなに警戒しなくていい。今回は、三成の件で借りがあるからな。拘束することはしない。それだけは約束しよう」
「ふん、『安土城の化け狐』が、よく言う…。別に、お前の仲間を助ける訳ではない。ケイには、私の部下が野盗に襲われた時、助けてもらった礼がまだだったからな。それに、さまよう御霊を救うぐらいなら、まだ私にも許されるだろうと思っただけだ」
「…ま、そういうことにしておこう。あまりごたついていると、間に合わなくなるからな」

 軽く肩をすくめて、彼の言葉を流す光秀。顕如は軽く息をついて茶猫の方を向くと、お経が書かれた数枚の札を差し出した。

「いいか、この二枚は、門の両側に貼るんだ。残りは、部屋の入口に、内と外に貼り、奴を中に閉じ込めろ。夜が明けるまで、決して外に出してはいけない。ましてや、幽霊と直接会わせてはならん。そんなことをすれば、奴は殺されるだろう」
「……分かりました。ありがとうございます、顕如さん」
「ありがとうニャ、顕如さん」
「礼には及ばん。…時間がなくなるぞ、早く行くがいい」
「はい!……行こう、ケイちゃん」
「うん」

 大事そうに札を抱きしめ、駆けて行く後姿を優しく微笑んで見送ったあと、顕如は森の奥へと消えていった…。

       ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 三成の御殿に着くと、顕如に言われた通りに札を貼り始める二人。体調を崩して公務を休んだ三成が、物音に気付いて布団からゆっくりと体を起こし、顔を出した。

「茶猫様、ケイも…。何をしているのですか?」
「あ! 三成くんは寝ていて! 部屋から出ちゃだめ!」
「これは、…お札、ですか?」
「三成! 部屋に戻るニャ! ほら、もうすぐ秀吉も来るかニャ!」
「ケイ、引っ張らないで…。ちゃんと戻るから…」

 二人の剣幕に押され、部屋に戻る三成。二人は、内側にも札を貼り、彼にきつく忠告する。

「三成くん、いい? 夜が明けるまで、絶対に部屋から出ちゃだめよ」
「かなさんが来ても、開けちゃダメニャ!」
「…ですが…」
「「でももへったくれもないの!わかった?!」」
「…わ、わかりました…」

 二人に詰め寄られ、たじたじになる三成。
 やがて、仕事を終えた秀吉も合流し、緊迫した一夜が幕を開けるのであった………。

         ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 日が暮れた森の奥、顕如と光秀の前に、夕顔の花の家紋の書かれた提灯を手にしたかなが現れた。二人を見ると、少し驚いた表情をする。顕如は、優しく諭すように話しかけた。

「お嬢さん、あんたが、かなさんか?」
『そうですが…貴方様は? 私は、三成様のお屋敷に行ったはず…』
「そこからここに来るように、私が細工をさせてもらった。お嬢さんは…自分が死んでいるという自覚があるようだな」
「……!」
『…はい。私は、寝ている自分とそれに追いすがって泣いている父や、部屋の隅でむせび泣く兄達を見て、死んだことを知りました』
「では、なぜ、安土へ来て三成に憑りついたのだ?」
『三成様と、もう一度お話がしたいと、強く強く願ったら、いつの間にか、お屋敷の前にいたのです…。憑りつこうとか、そういう気持ちでいたわけではありません』
「お前にその気がなくとも、生者と死者が共に過ごせば、相手の生気を吸い取り、殺してしまうのだ。現に奴は、今夜お前と会ったが最後、命を落とす」
『…え? 私が、三成様を殺す…?』
「そうだ。…例え、奴が死んだとしても、お前と同じところに行くことはできん。…いや、奴には極楽への道が開けるだろうが、お前に待っているのは、この世に縛り付けられ、生者をとり殺す悪鬼へと変わる道のみ…」
『そんな! …嫌です! 私は、そのようなつもりではなかった…。信じてください! 本当に私は、何も知らなかった…ただ、初めて優しくしてくださった三成様と、もう一度お会いして、お話がしたかっただけなのです…』

 顕如の説明に、取り乱して泣き崩れるかな。顕如は小さくため息を吐くと、懐から観音像を取り出し、彼女に差し出した。

『…これは…?』
「私が彫った観音様だ。お前の戒名を入れておいた。これを持って夜明けを待てば、仏が極楽へと導いてくれるだろう」
『ありがとうございます…。これで、悪霊にならずに済みます…』
「それから、心残りになるといかんからな。三成に最後の挨拶をしていくがいい」
『え? でも、会ってしまったら…』
「奴がいる部屋は、私の札で結界が張ってある。その外側から話しかければいい。…顔を見ることはできんが、別れを告げることはできるだろう。それにな…」
『……?』
「恋仲になる以外にも、奴に愛される方法があるだろう…。極楽に行って、次は丈夫な子に生まれ変わるといい」
『…!…はい、ありがとうございます、お坊様。……あの、お名前をお聞きしてもよいでしょうか…?』
「…名乗るほどの者ではない。時間がなくなるぞ、早う行け」
『…はい、ありがとうございました…』

 花がほころんだような笑顔を残し、かなは消えていった。一部始終を見ていた光秀が、艶めいたため息をついて彼に話しかける。

「……見事な手さばきでしたな。流石、腐っても鯛は鯛、といったところか…」
「私には、お前の方がわからんがな。…もう、終わったのだから、さっさと帰ったらどうだ?」
「そうですね…。貴方がここにいることも分かりましたし、いずれまた、顔を見る機会もあるでしょう」
「…次に会うときは、あの魔王の息の根を止める時だ。覚えておけ」
「…えぇ、覚えておきますよ、顕如殿」

 どこかつかめない含み笑いを浮かべる光秀に背を向けて、顕如は暗い森の奥へと消えていった…。

            ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 同じころの三成の部屋。秀吉も合流して三成の部屋で監視を続けていた。
 四人が疲れてうとうとし始めたころ、入り口の前に明かりが写り、人影が浮かんだ。

『……三成様、かなです…』
「…! かな様。今、開けますのでお待ち…」
「三成! 駄目だって言っているだろう!」
「秀吉様、ですが…」
『…その方の言う通りです。三成様、そのままで聞いていただけますか…』

 かなはそういうと、自分がすでに死んでいること、優しくされたことがうれしかった、ただ、会って話がしたかったが、それがいけないことだと知らなかったことを謝罪した。

『…自分が無知だったとはいえ、三成様の命を危険にさらしてしまったこと、後悔しています…。
 ですが、御坊様に助けていただくことができ、夜明けとともに極楽へ旅立てます。それで、三成様にお願いがあるのです…』
「なんでしょうか…? 私にできることなら、かなえてあげたいのですが…」
『もし、好きな方ができて夫婦になり、一番最初に女の子が生まれたら、「かな」と、私の名を付けてくれませんか?』
「……分かりました。約束します」
『ありがとうございます。これでもう、思い残すことはありません…。ご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした。三成様、どうかお元気で…』

 ふわり、とかなが頭を下げるのと同時に、まばゆい光が差し込み、夜が明けたのだと分かった。秀吉が障子を開けると、一輪の夕顔が落ちていた。

「……三成、ほら」
「……綺麗ですね…。まるで、かな様のような…」
「…!…寝てる…」

 三成は花を受け取ると、まるで糸が切れたかのように崩れ落ち、秀吉の腕の中で安らかな寝息を立てている。三人は、全てが終わったことを察して、彼を布団に寝かせて部屋に帰っていった…。



 ……この後、三成が三日三晩眠り続け、別な意味で周囲の者を恐怖に陥れることは、誰も予想できなかった…。
 
(終わり)
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